2017年8月3日木曜日

腎周囲脂肪織の濃度上昇は急性腎盂腎炎の診断に有用?

急性腎盂腎炎の単純CTで腎周囲脂肪織の濃度上昇が見られることはよく知られていますが、放射線科医としていろいろな患者のCTを見ていると、この所見は感染徴候のない患者でもしばしば見られることに気づきます。体感としては、感度は高いが特異度は低い印象でした。

これに関して先日、某所でこの論文が話題になっていましたので読んでみました。

Fukami H, Takeuchi Y, Kagaya S, Ojima Y, Saito A, Sato H, Matsuda K, Nagasawa T. Perirenal fat stranding is not a powerful diagnostic tool for acute pyelonephritis. Int J Gen Med 2017;10:137-144. doi: 10.2147/IJGM.S133685

研究手法: 後向き症例対照研究
対象: 腎盂腎炎群89名、対照群319名

単純CTにおける腎周囲脂肪織の毛羽立ち様の濃度上昇(perirenal fat stranding, PFS)について、年齢・性別・腎機能別にグループ化して比較しています。
その結果、腎盂腎炎群では対照群に比べ、PFSが見られる頻度は高かったものの、対照群のみの比較でも

  1. 70歳以上
  2. 男性
  3. 腎機能障害(eGFR<35)

の場合にはそうでない場合よりもPFSが有意に多かった、とのことです。

さらに、腎盂腎炎群と年齢・性別・腎機能が同等となるように対照群から症例を抽出して比較したところ、腎盂腎炎診断におけるPFSの

  • 感度:72%
  • 特異度:58%
  • 陽性尤度比:1.7

となり、あまり有用な所見とはいえないという結論になっています。

ということは、腎不全のない若い女性の腎盂腎炎なら診断価値があるのでは?

この論文の最大の問題点は、PFSという所見がきちんと定義されていないことです。「PFSってこんな感じ」という写真が1枚載せられているだけ。
もう少し定量化する努力をしてもよかったのではないかと……せめてWW・WLくらい書かないと、腎周囲脂肪織濃度上昇なんて肺条件にしたら真っ白になるし、頭部条件にしたら消えちゃいますけどねえ……。



もう一つ読んでみました。

Kim JS, Lee S, Lee KW, Kim JM, Kim YH, Kim ME. Relationship between uncommon computed tomography findings and clinical aspects in patients with acute pyelonephritis. Korean J Urol 2014;55:482-486.

3年間で急性腎盂腎炎と診断された女性125名(平均年齢42.8±13.5歳)について、以下の6つの造影CT所見の有無を検討したとのこと。

  1. perirenal fat infiltration (PFI、腎周囲脂肪織濃度上昇。上のPFSと同じ概念)
  2. ureteral wall edema (尿管壁肥厚)
  3. renal abscess formation (腎膿瘍)
  4. pelvic ascites (骨盤内腹水)
  5. periportal edema
  6. renal scarring

腎盂腎炎のCTでよく見られた所見は、① PFI(55%)、② 骨盤内腹水(40%)、③ 尿管壁肥厚(31%)、④ 腎膿瘍(16%)であり、またPFIの有無は① 発熱期間、② CRP値、③ 膿尿の程度と有意な相関があったとのこと。

この研究は対照群がそもそもありませんので、これらのCT異常所見が腎盂腎炎の診断に有用かどうかという検討はできません。なので、PFIはもちろん骨盤内腹水だって健常若年女性にはよく見られる所見ですが、この論文からはそれらの腎盂腎炎診断における意義は不明です。

PFIについてこの論文で言えるのは、「若年女性の腎盂腎炎においては、過半数でPFIが見られる」ということだけでしょう。

この論文でもPFIという所見がきちんと定義されていません。まあこちらの論文では、PFIの評価は放射線科医に丸投げしたようですが……。



腎盂腎炎の脂肪織濃度上昇については他にもいくつか論文があるようですが、今日はここまでにしておきます。