2017年8月16日水曜日

メタノール中毒 Methanol intoxication

Izumi M et al. Brain Images in Fatal Methanol Intoxication. Intern Med 56: 2087-2088, 2017

メタノール中毒では被殻・皮質下白質・視神経が主に侵されます。これは教科書に載りそうな典型例です。


2017年8月3日木曜日

腎周囲脂肪織の濃度上昇は急性腎盂腎炎の診断に有用?

急性腎盂腎炎の単純CTで腎周囲脂肪織の濃度上昇が見られることはよく知られていますが、放射線科医としていろいろな患者のCTを見ていると、この所見は感染徴候のない患者でもしばしば見られることに気づきます。体感としては、感度は高いが特異度は低い印象でした。

これに関して先日、某所でこの論文が話題になっていましたので読んでみました。

Fukami H, Takeuchi Y, Kagaya S, Ojima Y, Saito A, Sato H, Matsuda K, Nagasawa T. Perirenal fat stranding is not a powerful diagnostic tool for acute pyelonephritis. Int J Gen Med 2017;10:137-144. doi: 10.2147/IJGM.S133685

研究手法: 後向き症例対照研究
対象: 腎盂腎炎群89名、対照群319名

単純CTにおける腎周囲脂肪織の毛羽立ち様の濃度上昇(perirenal fat stranding, PFS)について、年齢・性別・腎機能別にグループ化して比較しています。
その結果、腎盂腎炎群では対照群に比べ、PFSが見られる頻度は高かったものの、対照群のみの比較でも

  1. 70歳以上
  2. 男性
  3. 腎機能障害(eGFR<35)

の場合にはそうでない場合よりもPFSが有意に多かった、とのことです。

さらに、腎盂腎炎群と年齢・性別・腎機能が同等となるように対照群から症例を抽出して比較したところ、腎盂腎炎診断におけるPFSの

  • 感度:72%
  • 特異度:58%
  • 陽性尤度比:1.7

となり、あまり有用な所見とはいえないという結論になっています。

ということは、腎不全のない若い女性の腎盂腎炎なら診断価値があるのでは?

この論文の最大の問題点は、PFSという所見がきちんと定義されていないことです。「PFSってこんな感じ」という写真が1枚載せられているだけ。
もう少し定量化する努力をしてもよかったのではないかと……せめてWW・WLくらい書かないと、腎周囲脂肪織濃度上昇なんて肺条件にしたら真っ白になるし、頭部条件にしたら消えちゃいますけどねえ……。



もう一つ読んでみました。

Kim JS, Lee S, Lee KW, Kim JM, Kim YH, Kim ME. Relationship between uncommon computed tomography findings and clinical aspects in patients with acute pyelonephritis. Korean J Urol 2014;55:482-486.

3年間で急性腎盂腎炎と診断された女性125名(平均年齢42.8±13.5歳)について、以下の6つの造影CT所見の有無を検討したとのこと。

  1. perirenal fat infiltration (PFI、腎周囲脂肪織濃度上昇。上のPFSと同じ概念)
  2. ureteral wall edema (尿管壁肥厚)
  3. renal abscess formation (腎膿瘍)
  4. pelvic ascites (骨盤内腹水)
  5. periportal edema
  6. renal scarring

腎盂腎炎のCTでよく見られた所見は、① PFI(55%)、② 骨盤内腹水(40%)、③ 尿管壁肥厚(31%)、④ 腎膿瘍(16%)であり、またPFIの有無は① 発熱期間、② CRP値、③ 膿尿の程度と有意な相関があったとのこと。

この研究は対照群がそもそもありませんので、これらのCT異常所見が腎盂腎炎の診断に有用かどうかという検討はできません。なので、PFIはもちろん骨盤内腹水だって健常若年女性にはよく見られる所見ですが、この論文からはそれらの腎盂腎炎診断における意義は不明です。

PFIについてこの論文で言えるのは、「若年女性の腎盂腎炎においては、過半数でPFIが見られる」ということだけでしょう。

この論文でもPFIという所見がきちんと定義されていません。まあこちらの論文では、PFIの評価は放射線科医に丸投げしたようですが……。



腎盂腎炎の脂肪織濃度上昇については他にもいくつか論文があるようですが、今日はここまでにしておきます。

2017年7月23日日曜日

食道心膜瘻 Esophagopericardial fistula

Chima K. P. Ofoegbu, Neil Hendricks, Lovendran Moodley.  A case of esophagopericardial fistula as a complication of upper gastro-intestinal endoscopy.  J Surg Tech Case Rep 2014;6:18-20

これは画像の論文ではないのですが……

統合失調症の男性が胃カメラを受けている時に、カメラをむりやり引っこ抜いたら翌日に胸背部痛で救急受診。画像上は食道心膜瘻を証明できませんでしたが、経過観察目的で入院させたら翌朝に心原性ショックになってしまったと。

USで心臓をみたら心膜液が溜まっていて、穿刺したら膿が引けたとのこと。外科的にドレナージを施行して、その時の心膜生検の病理組織からは食物残差による化膿性心膜炎が疑われました。

私はまだ救急を受けていた時代に、食道癌術後の胃管心膜瘻の紹介患者を受けたことがあります。こちらですが、割と衝撃的な写真が見れます。

2017年7月17日月曜日

脳静脈洞は小脳より白い? 黒い?

貧血があると血管がCTで低吸収に見えることは、よく経験します。
頭部CTでは人によって、横静脈洞がすぐ前方の小脳に比べて高吸収だったり低吸収だったりします。まだ駆け出しの頃、黒っぽく見える横静脈洞を見て「ああ、横静脈洞は黒っぽく見えるんだな」と理解した次のCTで、今度は真っ白な横静脈洞を見て、脳出血かと焦ったものです。

そこら辺をちゃんと調べた論文はないかと思って探してみたら、こんな論文がありました。

Black DF, Rad AE, Gray LA, Campeau NG, Kallmes DF.  Cerebral Venous Sinus Density on Noncontrast CT Correlates with Hematocrit.  AJNR Am J Neuroradiol. 2011 Aug;32(7):1354-7. doi: 10.3174/ajnr.A2504.


【目的】
単純CTにおける脳静脈洞の吸収値上昇が血液濃縮に依存することを確認し、またそれが静脈洞血栓症と区別できるかどうかを検討する。
【対象】
2ヶ月間に頭部CTを施行した患者(N=166)。
【除外条件】
頭蓋内にアーチファクト、病変、外傷、術後変化のあるもの。
過去3日以内に造影剤が使用されたもの。
静脈血栓症が疑われたもの。
その他、上矢状静脈洞の吸収値に影響を及ぼす可能性のある異常があるもの。
【方法】
上矢状静脈洞の十分開存した部分を5ヶ所選び、ROIを置いてHUを計測し、ヘモグロビン、ヘマトクリットとの関連を検討した。
また、後にMRVで静脈洞血栓症と診断された8例を別グループとし、同様の計測を行って比較した。
【結果】
血中ヘモグロビンおよびヘマトクリットが高いほど、上矢状静脈洞は単純CTで高吸収となった。
CT値/ヘマトクリット(H:H比)をとると、静脈血栓症のない症例ではH:H比は1.4前後であったが、静脈血栓症がある症例ではいずれもH:H比が1.8以上となった。


AとBは静脈血栓症のある症例、CとDはない症例。CT値だけで区別するのは難しそうです。この症例なら、むしろ静脈洞の形から推定した方がいいかもしれません。


血栓がある場合(黒い棒グラフ)はない場合(グレーの棒グラフ)に比べ、ヘマトクリットの割に上矢状静脈洞のCT値が高くなる、というわけですが、さっさと造影なりMRIなりした方がいいんじゃないかしら……。




さて、私の関心は「どうして静脈洞は白くなったり黒くなったりするのか」なので、そこに焦点を当てて私も検証してみました。

【方法】
ある日の当院頭部CT全例を対象とし、頭部術後、15歳未満の小児、過去3日以内に造影剤が使用された例、過去1ヶ月以内に血液検査を施行していない例を除外(N=13)。
上矢状静脈洞内の3ヵ所と、小脳半球背側の脳溝を避けた4ヵ所にROIを設定し、CT値を計測して平均を算出した。
過去1ヶ月以内で直近の血液検査から、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットを抽出し、上記計測値との相関を検討した。
【結果】
上矢状静脈洞のCT値は、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットといずれも強い正の相関があった。
小脳半球のCT値はヘマトクリットに関係なくほぼ一定であり、上矢状静脈洞の吸収値の分布のほぼ中央に位置していた。


上矢状静脈洞のCT値(白丸)はヘマトクリットと正の相関を示したのに対し、小脳半球のCT値(黒丸)はヘマトクリットに関わらず35~40HU程度です。しかも、上矢状静脈洞のCT値の分布のちょうど中央を横切っています。
なので、ヘマトクリットがおよそ35%以下になると上矢状静脈洞は小脳より低吸収になり、単純CT上は黒く写ってきます。逆にヘマトクリットがおよそ40%以上になると、上矢状静脈洞は小脳より高吸収になり、単純CT上は白く写ってくるわけです。

ヘマトクリットの基準範囲はだいたい男性で40~50%、女性で35~45%ですから、単純CT上の脳静脈洞は大多数の健康な男性なら小脳よりやや白く、女性なら小脳とほぼ同じくらいに写るということでしょう。

2017年7月16日日曜日

中枢神経ゴム腫 Syphilitic gumma of central nervous system

Murakawa M et al, Pontine Syphilitic Gumma in an HIV-negative Patient. Intern Med 2017:56;1747-1748




梅毒による中枢神経ゴム腫で、MRIまで撮っている症例報告は意外と多くありません。MRIがバンバン撮れるようになってからは、既に梅毒はほとんど忘れられた病気になっていたからでしょうか。最近、日本では再び梅毒が話題になっているので、こういう症例にお目にかかる機会も増えていくのでは……。

それを示すかのように、Internal Medicineの同じ号には胃梅毒の症例も掲載されています。(Intern Med 2017;56:1753