2017年7月23日日曜日

食道心膜瘻 Esophagopericardial fistula

Chima K. P. Ofoegbu, Neil Hendricks, Lovendran Moodley.  A case of esophagopericardial fistula as a complication of upper gastro-intestinal endoscopy.  J Surg Tech Case Rep 2014;6:18-20

これは画像の論文ではないのですが……

統合失調症の男性が胃カメラを受けている時に、カメラをむりやり引っこ抜いたら翌日に胸背部痛で救急受診。画像上は食道心膜瘻を証明できませんでしたが、経過観察目的で入院させたら翌朝に心原性ショックになってしまったと。

USで心臓をみたら心膜液が溜まっていて、穿刺したら膿が引けたとのこと。外科的にドレナージを施行して、その時の心膜生検の病理組織からは食物残差による化膿性心膜炎が疑われました。

私はまだ救急を受けていた時代に、食道癌術後の胃管心膜瘻の紹介患者を受けたことがあります。こちらですが、割と衝撃的な写真が見れます。

2017年7月17日月曜日

脳静脈洞は小脳より白い? 黒い?

貧血があると血管がCTで低吸収に見えることは、よく経験します。
頭部CTでは人によって、横静脈洞がすぐ前方の小脳に比べて高吸収だったり低吸収だったりします。まだ駆け出しの頃、黒っぽく見える横静脈洞を見て「ああ、横静脈洞は黒っぽく見えるんだな」と理解した次のCTで、今度は真っ白な横静脈洞を見て、脳出血かと焦ったものです。

そこら辺をちゃんと調べた論文はないかと思って探してみたら、こんな論文がありました。

Black DF, Rad AE, Gray LA, Campeau NG, Kallmes DF.  Cerebral Venous Sinus Density on Noncontrast CT Correlates with Hematocrit.  AJNR Am J Neuroradiol. 2011 Aug;32(7):1354-7. doi: 10.3174/ajnr.A2504.


【目的】
単純CTにおける脳静脈洞の吸収値上昇が血液濃縮に依存することを確認し、またそれが静脈洞血栓症と区別できるかどうかを検討する。
【対象】
2ヶ月間に頭部CTを施行した患者(N=166)。
【除外条件】
頭蓋内にアーチファクト、病変、外傷、術後変化のあるもの。
過去3日以内に造影剤が使用されたもの。
静脈血栓症が疑われたもの。
その他、上矢状静脈洞の吸収値に影響を及ぼす可能性のある異常があるもの。
【方法】
上矢状静脈洞の十分開存した部分を5ヶ所選び、ROIを置いてHUを計測し、ヘモグロビン、ヘマトクリットとの関連を検討した。
また、後にMRVで静脈洞血栓症と診断された8例を別グループとし、同様の計測を行って比較した。
【結果】
血中ヘモグロビンおよびヘマトクリットが高いほど、上矢状静脈洞は単純CTで高吸収となった。
CT値/ヘマトクリット(H:H比)をとると、静脈血栓症のない症例ではH:H比は1.4前後であったが、静脈血栓症がある症例ではいずれもH:H比が1.8以上となった。


AとBは静脈血栓症のある症例、CとDはない症例。CT値だけで区別するのは難しそうです。この症例なら、むしろ静脈洞の形から推定した方がいいかもしれません。


血栓がある場合(黒い棒グラフ)はない場合(グレーの棒グラフ)に比べ、ヘマトクリットの割に上矢状静脈洞のCT値が高くなる、というわけですが、さっさと造影なりMRIなりした方がいいんじゃないかしら……。




さて、私の関心は「どうして静脈洞は白くなったり黒くなったりするのか」なので、そこに焦点を当てて私も検証してみました。

【方法】
ある日の当院頭部CT全例を対象とし、頭部術後、15歳未満の小児、過去3日以内に造影剤が使用された例、過去1ヶ月以内に血液検査を施行していない例を除外(N=13)。
上矢状静脈洞内の3ヵ所と、小脳半球背側の脳溝を避けた4ヵ所にROIを設定し、CT値を計測して平均を算出した。
過去1ヶ月以内で直近の血液検査から、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットを抽出し、上記計測値との相関を検討した。
【結果】
上矢状静脈洞のCT値は、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットといずれも強い正の相関があった。
小脳半球のCT値はヘマトクリットに関係なくほぼ一定であり、上矢状静脈洞の吸収値の分布のほぼ中央に位置していた。


上矢状静脈洞のCT値(白丸)はヘマトクリットと正の相関を示したのに対し、小脳半球のCT値(黒丸)はヘマトクリットに関わらず35~40HU程度です。しかも、上矢状静脈洞のCT値の分布のちょうど中央を横切っています。
なので、ヘマトクリットがおよそ35%以下になると上矢状静脈洞は小脳より低吸収になり、単純CT上は黒く写ってきます。逆にヘマトクリットがおよそ40%以上になると、上矢状静脈洞は小脳より高吸収になり、単純CT上は白く写ってくるわけです。

ヘマトクリットの基準範囲はだいたい男性で40~50%、女性で35~45%ですから、単純CT上の脳静脈洞は大多数の健康な男性なら小脳よりやや白く、女性なら小脳とほぼ同じくらいに写るということでしょう。

2017年7月16日日曜日

中枢神経ゴム腫 Syphilitic gumma of central nervous system

Murakawa M et al, Pontine Syphilitic Gumma in an HIV-negative Patient. Intern Med 2017:56;1747-1748




梅毒による中枢神経ゴム腫で、MRIまで撮っている症例報告は意外と多くありません。MRIがバンバン撮れるようになってからは、既に梅毒はほとんど忘れられた病気になっていたからでしょうか。最近、日本では再び梅毒が話題になっているので、こういう症例にお目にかかる機会も増えていくのでは……。

それを示すかのように、Internal Medicineの同じ号には胃梅毒の症例も掲載されています。(Intern Med 2017;56:1753