2020年10月17日土曜日

画像診断の4つのプロセス

画像診断医になってから、「画像診断とは何か」ということをよく考えていました。

画像診断は、①所見を取る、②所見を解釈する、③鑑別診断を挙げる、④鑑別診断を絞る、という4つのプロセスから成っています。画像診断というのは基本的にはこれらの繰り返しです。

① 所見を取る

これは各臓器や狭い範囲の構造物について、正常か異常か、異常であれば正常とどう異なるのかを判定するプロセスです。
例えば、「ここに腫瘤がある」「ここの腸管壁が肥厚している」「左腎がない」などです。
正常かどうかを判定するわけですから、正常な人体についての解剖学の知識が必要となります。
ただし、正常と異常の間のグレーゾーンは意外と広く、必ずしもどちらかに決められるわけではありません。

② 所見を解釈する

これは①で取った異常所見に対し、どこにどのような組織や構造物が存在し、どのような病態が想定されるかを考えるプロセスです。
過去の画像検査がある場合は、それと比較することも解釈の一助となります。
また、複数の異なる部位に異常所見があり、それらがすべて同一の原因による場合もあります。
例えば、「この腫瘤は嚢胞と考えられる」「この腸管壁の肥厚は悪性腫瘍の可能性は低い」「左腎は摘出後ではなく高度萎縮のようである」などです。
このプロセスでは解剖学に加え、生理学や病理学などの知識が必要となります。また、いろいろな物質や組織が各々の画像検査でどのような所見を呈するかを知っている必要があります。

③ 鑑別診断を挙げる

①~②で得られた所見の解釈に基づいて、生じている病態に合致する診断名を挙げるプロセスです。
画像診断学、つまり多くの疾患の画像所見についての知識を要します。
鑑別診断はたくさん挙がることもありますし、ほとんど挙がらないこともありますが、知らない病気を鑑別に挙げることは不可能なので、普段どれだけ勉強しているかが最も効いてくるプロセスであると言えます。

④ 鑑別診断を絞る

③で列挙した鑑別診断に、可能性の高い順に順位をつけ、ほとんど可能性のないものを消していくプロセスです。
例えば、いくら画像上は肺炎に見えても、発熱も呼吸器症状もない、血液検査でも炎症所見がないとしたら、「そういう肺炎もある」と考えるよりも、「そもそも肺炎ではないのではないか」と考える方が、正しい診断に至る確率が高くなります。そこで、肺炎という診断の優先順位を下げ、他の鑑別診断の順位を上げます。これを各々の鑑別疾患について考え、最も「らしい」ものを最終診断とし、切り捨てられなかったものは鑑別診断として併記します。
判断の根拠として用いられるものは、画像所見の他、年齢・性別・病歴・他の検査所見・発症頻度など多岐にわたるため、各疾患についての広い診断学の知識を要します。


上記の①~④のプロセスはこの順になされるものではなく、常に行きつ戻りつするものです。

画像診断医は座学でもスキルアップが可能と言われることがしばしばあり、確かに内科や外科と比べると、臨床経験のまだ短い医者でも座学である程度それを補完しやすいところがあります。
特に、上記の②および③のプロセスにその傾向が強いと私は思います。逆に、グレーゾーンの広い正常・異常の判断を要する①のプロセスと、画像以外の情報も含めた総合的な判断を要する④のプロセスは、経験によるところが比較的大きいように思います。